暗黒大陸長野 - 長野県はITエンジニアにとっては未開の地のような風土です。長野市のシステム開発に携わる企業は東京のような大都市圏から仕事を受注して生計を立てている事が殆どで、一般の人が考えるシステム開発の風景と大きく乖離しています。

公開日時:2021/05/15 15:01 最終更新:2021/06/11 08:14   暗黒大陸長野
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暗黒大陸長野 Vol.2 - SIer世界の闇と光(2013-2014頃)

初めてのSIerの世界へ

起業後に割と大きな収入源となっていた企業からの仕事がどう考えても割に合わないと判断されるほど崩壊して束縛されるようになって来た為、別の取引先を探す必要性が出てきました。

何しろわたしの会社は所謂一人株式でしたから、わたしがシステム開発に専念している間は誰も営業活動をしてくれません。『働いたら働いた分だけ請求してもらって構わない』という契約ではありましたが、劣悪なコードの山の修正の為に毎日12時間以上も働いていたらそれ以外に割ける時間が全く無くなってしまいます。それでは企業経営は成り立ちません。

本来はそういう事にならないようなプログラムコードを書くのですが、既に劣悪なコードが山のように書かれてしまった後ではもうどうしようもありません。

ですから、大きなバグが一通り取り終わってなんとか動くという段階になったところで『当初の契約の予定期間を2ヶ月過ぎており、稼働時間も多くなり過ぎた事』を理由に、そのプロジェクトからは離脱させてもらいました。

勿論、それに先立って次の仕事を見つけてあり、そちらに参加したい事も理由として相談しましたから無理には引き止められませんでした。

次の仕事ですが、起業当初から参加させてもらっていた長野市ソフト産業協議会で面識が出来たSI企業さんに以前に営業活動に行っていた事がきっかけとなり、年末から翌年半ばまでの半年間で予定されている既存システムのスマフォ対応WEBアプリ化プロジェクトに技術者を派遣してもらえないか?という依頼が届いた事で話が進みました。私の専門分野であったからです。

SIとはSystem Integrationの略で、顧客からの依頼に沿って主にコンピュータシステムを構築して提供する事を指し、それを主業態としている企業の事を蔑視を込めてSIerと呼びます。

派遣事業 - 特定派遣とは?

当時の日本のシステム開発業界では技術者派遣が一般的でした。パソナやパーソルテンプスタッフのような一般的な登録型派遣ではなく、自社の常用型従業員を専門職として派遣する特定派遣という派遣形態です。

この特定派遣事業、事業者として国に届出さえすれば派遣事業を行う事が可能でした。

ですからわたしの会社でもその企業さんからの仕事を受注するため、急遽社会保険労務士さんの事務所の門を叩いて特定派遣事業者としての届出を手伝ってもらいました。届出にあたっては就業規則や職場環境の整備が必須だったからで、一人株式であったわたしの会社には当時、それらが存在しなかったからです。

従業員のためのデスクも必要だったので、長野市にある中古オフィス家具専門店『天下一』さんでそこそこモダンなデスクを確か1万円で購入しました。

中古オフィス家具の天下一

椅子は実家に在った物を持ってきて代用です。

ちなみに、自分が普段使っている椅子はHumanscale製の13万円程の椅子(フリーダムチェア)です。東京に出張に行った時にまだ元気だった頃の大塚家具さんで購入しました。365日、一日12時間以上も座り続ける椅子ですから、そこをケチるわけには行きませんでした。

Humanscale フリーダムチェア

長野市に限らず地方というのは仕事が殆ど無いですから、大抵の中小規模のシステム開発会社は大都市圏の企業に技術者を派遣し、その派遣料で生計を立てるのが一般的になってしまっていました。

ですから、届出制という容易さも相まって、悪徳な経営者は適当に雇い入れた未経験者をロクに教育もせず『3年の実務経験があります』という建前で派遣先へ大量に送り込んで荒稼ぎをするといった悪行が横行するようになります。実はシステム開発会社ではなく、実態は人材紹介会社ですね。

雇用にあたっての待遇もかなり悪く、ずっと派遣先で働いていて基本的に所属会社には出社しない為、自分のデスクすら無い事も少なく無かったようです(※これは違法です)。

こうした背景に加えて偽装請負問題の温床ともなっていた為、法改正によって特定派遣事業の廃止が決まり2015年に施行、それまでの届出済企業についての経過措置も2018年に終了し、現在は非常に厳しい登録基準のある許可制の一般派遣のみに一本化されました。

ですが、特定派遣に味を占めたのは派遣元だけではなく派遣先も一緒でその業界体質は変わる事は無く、現在はSES契約という全く新しい形態へと進化(悪化)を遂げています。

日本の法律にはそんな契約形態は存在しませんから実態としてどの契約形態であるのかを明確にする必要があるのですが、大抵の人は法律を全く知らないので特定派遣よりも更に劣悪な環境で業務をさせられていたりするようです。

SIerが嫌われている理由を痛感する

仕事の基本がなっていない

派遣先で働き始めてからすぐに、特定派遣の酷さについて理解し始めます。

初日はまず、貸与されたノートPCのセットアップでした。A4用紙10枚ほどの手順書が渡され、OSの初期設定や職場内での環境の統一、セキュリティ面の安全性の確保といった基本的な作業について、派遣労働者が自分でセットアップを行います。大々的にシステム開発を謳っている会社ですが、環境構築自動化ツールみたいな物はありません。だから派遣労働者にやらせるのでしょうけどね。

手順自体は非常に簡単でしたが、ノートPCのスペックが低くHDDのため異常に時間が掛かります。規定のインストール作業だけでほぼ丸一日費やしました。就労期間中に新しく入って来た別の会社の派遣労働者さん達の様子もみていましたが、皆、必ず丸一日掛かっていましたからわたしだけ手が遅いといった話ではないです。

そして、2日目から既に業務開始です。自分が普段使っているIDEを入れてセットアップしたり、ローカル検証環境を整えたりといった時間は一切ありませんでした。ネットの情報を色々見てきましたが、大体どこもこんな感じのようですね。システム開発に限った話ではなく仕事を行う上で一番重要な環境を整えるという工程が完全に無視されています。何故ならSIの人達は『仕事とはどのようにやるべきか?』という基本的な事を何一つ知りませんから。『そりゃ、どこのプロジェクトも炎上しまくるだろ』と納得します。

楽観排他を知らない人

その業務、わたしの会社とそのSI企業が契約する際に前提となっていたプロジェクトではありません

当初予定されていたプロジェクトの前工程が遅延している為、準備が整うまでの間別のプロジェクトを手伝って欲しいというわけです。

それ自体は特に異存は無いのですが、やっている事がめちゃくちゃでした。

業務指示をしてくる人も契約書にある派遣先指揮者では無く、とにかく態度が横柄です。技術者派遣の現場でのプロパー(生え抜き社員、派遣の場では主に派遣先企業正社員の意味で使われる)の人格の酷さについては噂で聞いていましたが『あ、本当だったんですね』といった感じでした。

業務内容はある程度進行しているシステム仕様追加の検証と改修対応でしたが、わたしの手元に来た時点で既に燦々たる状況です。ソースコードは巨大ネストしている上、インデントがバラバラですが整形はしてはいけません。修正対象外の行が差分として検出されてしまうからだそうです。そして、開発用サーバですらエラー表示が切ってあり、異常終了しても何が起きたのかすら分かりません。もう、言っている事とやっている事がメチャクチャです。

ベタ書きしてあるデータベースのSELECTクエリは仕様追加・変更の度に無計画にUNIONが繰り返されたらしく400~500行もありますが、その仕様が仕様書には書いてありません。長大なSQLクエリだけが記述してあります。ですから本当は一体何をしたいのか?すらよく分かりません。つまり、まともに検証する事も書き直す事も出来ません。

渡された仕様書では楽観排他が必須とされていますが、肝心の実装では楽観排他の基準となるレコードをロックしていませんからアクセスが重なると当然コンフリクトします。

それをプロパーに報告すると『なんで楽観排他なのにロックしなきゃいけないの?』と、まるで馬鹿を見るような顔をして言われます。ですから仕方なくメカニズムを図示して提出したのですが、今度は『難しくてわかんない』だそうです。あなた、仕事を一体何だと思ってるんですか?

その仕様書、この人が書いたんですけどね…。自分で『楽観排他』と書いたのに、楽観排他とはどのような物なのか全く知らないのです。SIerってこんな感じなんですよね。楽観排他を理解していなかったら、複数人が同時に使用するシステムなんて作れるわけがありません。

ダメな楽観排他

※こういった事を公開するのはNDA(機密保持契約)に違反する可能性があるという事も理解しますが、NDAというのは本来企業利益に対する侵害を禁止する契約であって、企業の杜撰さを隠蔽する為の物ではありません。守秘義務とは全く異なります。ですから、可能と思われる範囲で杜撰さについては言及していきます。一個人・一企業の利害だけ語っているわけではありませんので、それがシステム開発業界全体の為であろうと考えます。

urlを開いてボタンを押すことすら出来ない人

そのプロジェクトが終わると、次はちょっとした作業の指示が来ます。

外注して納品されたWEBページにFacebookの『いいね!』ソーシャルボタンを追加するだけという依頼でしたが、本当にだけなら、自分でやるんですよね。

いいね!ボタン

見てみると、外注した業者が納品したHTML、CSSのソースコードが既にカオスです。

とにかくやっている事がメチャクチャ。WEB制作会社とかWEBデザイナーとか言っている人達は難しい事を考えられない人が多いので構造化が本当に下手くそです。

一時、セマンティック・ウェブとかいう言葉が流行りましたが意味を理解していないので片っ端からidやclassをつけまくってHTMLだけ見てもゴミクズの山みたいになっている事が頻繁にありますし、CSSに至っては『これ、巻物ですか?』みたいに長大なファイルになっていたりして目も当てられません(Sassコンパイルやwebpacしたわけではなく)。

そのゴミ溜めのようなHTML上にソーシャルボタン用HTMLを追加し、ゴミ溜めのようなCSSにスタイルを追記して検証環境でレイアウトの確認、本番環境のサーバへのアクセス権は貰っていないためソースコードだけ渡して作業を終了しました。

それが、翌日になって『いいね!』ボタンを押してもカウントが変わらないと言われます。

どういう事だろうと思ってGoogle検索してみると、Facebookソーシャルボタンの実質バグだそうで、対応方法まで含めて30秒で理由が分かりましたが、プロパーはGoogle検索すら出来ません。わたしには本番環境へのアクセス権が与えられていませんからわたしが自分で動作検証する事は出来ないんですけどね…。

その後プロパーはソーシャルプラグイン上に表示される画像等も含めて自分で何度か微調整を繰り返していましたが、その変更内容を即時反映させるにはFacebook上で強制的にキャッシュをリフレッシュさせる必要がありました。やる事はFacebookのデベロッパーツールでボタンをクリックするだけなのですが、そのプロパーはそれすら嫌がってわたしに指示を出してきます。

WEBページを開いてボタンをクリックするだけよりも、わたしの席までわざわざやって来て口頭で指示を繰り返す方が簡単な思考回路の方なんですね…。ちょっと想像の枠を超えてきました。

A社、再び

次の業務もやはり、炎上中のプロジェクトのサポートです。契約の前提であったプロジェクトにはいつまで経っても参加出来ません。

炎上理由は端的に言えば、A社から来ている技術者の能力の低さです。

参加した初日に私に依頼された業務は、現在開発中、あるいは改修中であったWEBシステムのテストを行う、というものでした。

これについてテスト項目書は存在せず、仕様書も存在せず、ただひたすら抽象化された極めて内容の把握しにくい設計書があるだけでした。

私が関わった仕事の全てについて「まともな仕様書」というものは存在せず、「画面設計書」という名のサーバーサイドの処理とクライアントサイドの処理を併記した、奇妙な書類が必ず存在していました。システム開発がどういう物なのか分かっていない人程、仕様書と設計書の違いという物を全く理解していませんね。

これにおける最大の問題点は、設計書の通りに確かに動作はするが、論理的に考えてこの動作はおかしかろうというものについて、それが期待される仕様であるのか、設計書そのものが間違っているのかの判断が不可能なことで、試験を行った結果の適合・不適合は全く意味を持たない事です。

ある時わたしが、設計書には書かれていないが極めて非論理的な動作を行う処理に気づき、実装を行っているA社の女性を呼んで「これは正しい動作ですか?」と聞いたところ、彼女は「え!?なんでこうなるんだろう!?」と頭をかかえながらノートパソコンを開き、プログラムコードを確認し始めました。

そのモニタに映ったコードを見て『なるほど、これではバグだらけになるのも無理はなかろう』と納得しました。

私が見たのは、彼女のノートパソコンの画面一面を埋め尽くすPHPのソースコードでした。1関数内のソースコードだけでノートPCの画面一面を埋め尽くしています。

正しく『縦にも横にも長い巻物』という奴です。そんなコード書いていたら、そりゃあ、バグだらけになりますよ…。

※イメージとしてはこんな感じです。

画面一面のソースコードイメージ

みんな、病んでいる

その後やっと本来のプロジェクトに参加出来るようになったのですが、この時点で既にマイナススタートです。

使用が予定されている技術について、前任者であるB社の技術者Mさんとプロパーが一緒に事前調査・動作検証を行って完了していた筈なのですが、実質的に何もやってありませんでした。個別の技術が動作する事は確認してあったようですが、それらを組み合わせて干渉し合わないかといった検証は何一つやってありませんでした。このせいで正規の実装中に無視できない問題がいくつか発生する事になります。本当に2ヶ月近くの間一体何をしていたんだろう?という感じです。

Mさんから引継ぎがあったのですがMさんは完全なコミュニケーション障害の方で、ドキュメントは全く作れていないし、マトモな会話すら満足に出来ません。というか、恐らく鬱病を発症していました。

以前にB社さんに営業に行った事があるのですが、あそこの社長さん、爬虫類みたいな顔をしているんですよね。つまり感情が無いんです。色々な会社を回りましたが、システム開発会社の経営者の多くはそんな感じです。そういう会社で言われるがままにわけも分からず派遣先に打ち込まれていたら、それは精神を病むでしょう。

ですから公にはされませんでしたが『能力不足』という理由でMさんは契約解除されて去って行きました。それについてはある意味、可哀想であったと今でも思っています。

最悪のプロパー

そして、このプロジェクトにもやはりまともな仕様書というものは存在しませんでした。

あるのは、わたしが他のプロジェクトに携わっている間に連絡された様々な場所にちりぢりになって置いてあるサーバー構成想定図であるとか、旧システムプログラムだとか、旧システムのインターフェイス仕様書だとか、旧システムのDB設計書だとか、お客様とのやりとりの記録だとか、先ほどあげた検証の結果だとか、そんな断片の山でした。

仕方なくそれらを手繰りしながら設計書を書き始めたのですが、ある日の朝のミーティングでプロパーがいきなり「このシステムはスマフォ端末からWEBサーバーを経由してWEBサービスにアクセスするの? それとも直接WEBサービスを呼ぶの?」と聞いてきました。

えーと、わたしは派遣労働者なのでそれを決める裁量権限はありませんから、方針を決めて指示を出すのが貴方の役目です。もう、根本からして認識が狂っています。

ですが、旧Androidアプリケーションが直接WEBサービスにアクセスを行っていたので、想定として本プロジェクトにおいても直接WEBサービスを呼ぶつもりだと答えました。

そうしたら「それではダメだ、このプロジェクトはWEBサービスのみをばら売りで提供することも想定しているし、 Androidアプリはそこで取り扱う情報においてアプリが機密を担保してくれるからいいが、今回はWEBブラウザで動作するWEBアプリだから必ずWEBサーバーを通し、取り扱う情報の機密においてはWEBサーバーが担保するようにしなきゃだめだ」と言われました。

また、私は機密情報については PHPの標準機能であるセッションを用いてWEBサーバ上に保存し、 cookieを経由してセッションID のみをクライアントに渡すというごく普通の実装を想定していたのですが、そのプロパーは「cookie なんて悪いことしようとする人が誰でもみれちゃうんだよ!」と謎の言葉を放ちます。

それで、私の知らない何かがあるのかと思い「そうなんですか?」と尋ねた所、そのプロパーは自信満々といった顔つきで「たぶん」とだけ答えました。憶測で断定します? 普通。

そして敢えて言及すると、そのプロジェクトで使用が決まっていたフレームワークはCodeIgniterですが、すいません、CodeIgniterが提供するセッションは、保存されている機密情報を暗号化して全部クライアント側に送信してしまう仕様なんです。ですから、暗号化キーが漏洩した時点で全部筒抜けになります。あなた、自分でこのフレームワークの採用を決定したのにそういう事を何も理解していないんですか?

発狂するプロパー

それで、設計書を書き換え始めたのですが、ある朝の会議で突然プロパーが怒りをむき出しにして、わたしが書き直している途中の設計書を画面に映し「これはどういうことなの!?」と詰問しました。

それはクライアントからWEBサーバへのアクセスについて「api_keyの送信は行わない」と書いた部分でした。旧Androidアプリがapi_keyを送信する仕様だったからです。

わたしは「先日の会議でapi_keyについてはクライアントには送信しないというお話になったと思いますが」と答えた所、「誰でもアクセスできるってことじゃないか!! これは情報漏えいだよ!?」と怒鳴り散らされました。

わたしは一体何を怒られているのか全く分かりませんでしたが、プロパーが「api_key渡さなかったらどうやって正しいクライアントを判断するの!?」と怒鳴ってくるので、「それはサーバのドメインじゃないですか?」と答えたら、「三木さんは全然理解していない、この仕様書見て!」と、先日の会議の後に送られてきたシステム全体の情報伝達経路の図を示しました。

それを見ても一体何が悪いのか分かりませんが、取り敢えず「申し訳ありませんでした」と謝ってその会議は終わりました。

その後、席に戻って設計書の修正を行っていたら、しばらくしてプロパーが私のところにきて「ごめん、 書いてあったね」と言って、先ほど見せられたわたしの設計書の下の方を指差しました。

それは「WEBサーバからWEB サービスへ行う問い合わせにおいて、ユーザー認証を行う」といった記述でした。

シーケンス図

だって、そういう話だったじゃないですか。正しい利用者としてWEBサービスを利用する為のapi_keyはクライアントには渡してはいけないって、あなたが言ったんじゃないですか。

本当に、言っていることが狂い過ぎているんです。

この仕事に限った事ではないのですが、あらゆる企業のあらゆる仕事に於いて、1ヶ月も経った頃には後からやって来たわたしのほうが以前から居るどの従業員よりもその会社の業務についてよっぽど詳しくなってしまうのです。嫌な言い方をするとわたしは個の能力が高過ぎるんです。あらゆる仕事をこなしてきましたからこの時点で既に一介の従業員の能力の範疇では無くなってしまっていました。

メンバーが増えても状況は変わらず、更に悪化

やがて、プロジェクトにもう一人のメンバーSさんが異動して来ます。

彼はわたしが新規開発しているスマフォ用クライアントアプリの開発ではなく、既存管理画面の改修担当となりました。元々のソースコードが劣悪で改修が遅延していた事による補充要員です。

管理画面改修を担当していたもう一人の技術者さんと同じ会社の人だったので比較的スムーズに進むであろうと思われていたようですが、これがかなり難航しました。

実は彼はNSEG仲間、つまり知り合いだったのですが、わたし達はそれについてはお互いに秘密にしていました。仕事に私情は挟まないようにしていたのです。

その彼から会社の同僚伝いに「今のソースコードがかなり酷い」という話を事前に聞かされていて、どうやらそれが尋常でないほどの酷さであるということが十分に予測されていました。

ある朝のミーティングにおいて、彼の改修が一向に進まないのをいぶかしんだプロパーが、WBS(作業分解構成図)を見ながら「なんでこんなに遅れてるの? 先週まででここまで終わってるはずだよね?」と言いました。それで彼は「コードが少しばかり汚いのと、私自身が仕様を完全に把握していないので…」と言ったところプロパーは激昂し、「なんで仕様を理解しないのに実装やってるの!!」と怒鳴りつけました。

何でと言われますと、前のプロジェクトから間髪いれずにこのプロジェクトの実装に参加させられ、これまでの経緯等について学習時間が全くないままWBSだけが規定されているからなのですが、一体何を言っているのでしょう?

こうなると最早、瞬間湯沸かし器なんじゃないかと心配になってきます。別に一々怒鳴らなくても仕事の指示くらい出せるでしょう? 本当に理解、出来ない思考回路の人です。

そして「前の会議で、ここまで終わってるって言ったよね!?それは嘘だったんじゃないか!!」と怒鳴りつけるのですが、仮に嘘だったとして、それは本当に終わっているか確認しなかったあなたの過失ではないですか?

基本的に、仕事の出来ない人は責任感が無いので全て他人のせいにします。階級社会というのは兎角そんな物ですね。

前述した通り、彼とわたしは友人であって、仕事の場において私情を挟むのは適切ではないことは良く分かっていましたがどう見ても理不尽なのはプロパーであろうと思ったので「Sさんは最近まで別プロジェクトにいて、こっちにきたばっかりですからねぇ」と助け舟を出しました。

それでプロパーもどうにか納得し、その場はなんとか収まりました。

しかし、根本的な問題がどうやら元のソースコードの汚さのようなのでSさんの改修はなかなか進まず、プロパーは常にイライラしていたようです。

もはや仕事とは呼べないまでに丸投げ

そのプロパーの態度の悪さや仕事に対する姿勢については忍耐を超える感じでした。その酷さについて詳細に記録したドキュメントが手元にありますが、あまりに酷過ぎるので訴訟にでもならない限り、流石に公開出来ません。

プロパー自身も管理画面側の改修を少し行っていたのですが、そのコード内で利用されている &(PHPでの参照渡し、C言語と同等)についてSさんに質問した際、Sさんが回答に加えて詳細に解説してあるWEBページのurlを見つけて返信した所、それに対する返答が『で、どっちなの? とっていいの~』という一行。文章を読んで自分の頭で考えるという事が全く出来ない知能の人です。

プロジェクトの進行については全てわたしに丸投げ。管理画面側を担当しているSさんの業務内容についてもわたしが指揮する事態になっていきます。こうなるともはや派遣契約では無く、逆の意味での偽装請負です。

試験についても私に丸投げ

サーバの環境構築についても私に丸投げ

ごめんなさい、それすらしなかったら、あなた一体何をしているんですか?

契約終了すら、簡単にはさせてもらえない

そんな感じであまりに酷い環境でしたから、契約更新はあり得ない状況でした。

それでも、これから長野市で長く営業活動を続けて行く事を考えると喧嘩別れのような事は出来ません。何があるか分かりませんし、長野のような村社会では噂はあっという間に広まります。

ですから、契約満期の1ヶ月前にあたって部署長のTさんから呼ばれ「契約更新の時期になりました」と言われた際、ニコニコ笑って「申し訳有りません、自社でやりたい事があるので契約を終了させてください」と答えました。それで全て丸く収まる筈だったのです。

ですが、そうは行きませんでした。

何しろわたしはプロパーに代わってプロジェクトの進行から派遣従業員さん達の業務の調整、問題解決まで平気な顔をして全て行ってしまっていたので『とても良く働いてくれる派遣さん』という認識が広まってしまっていたのです。

わたしは元々印刷・出版業界で部署長を務めており、仕事人としての能力が並ではありませんでした。人材教育まで行っていましたから人の扱いはお手の物です。そこに加えて一人とはいえ企業経営をし、自分で営業活動までしている。チームマネジメント等わたしにとっては造作も無い事で『プログラムコードなら書けます』という一般的な派遣技術者さん達とはそもそもの次元が違うのです。とにかく、わたしの能力が高過ぎました。

ですから、わたしが契約更新を断ったのを聞いたTさんは正に晴天の霹靂という感じで驚き、「何故ですか? 別の仕事を受注している訳でもないのに何故契約を終了するのか理解出来ません。もし当社に何か落ち度があったのであれば必ず改めるので理由を教えて下さい。でなければ納得出来ません!」とおっしゃるのです。

そこまで言われてしまうと、おためごかしでごまかしたら逆にわたしにとって不利になります。

仕方がないので本当の事を説明するしかなくなり、一週間の猶予を貰って、それまでこの会社で働いた5ヶ月間に起きた事を詳細に記録した報告書をTさんに提出するに至りました。

その報告書を見たTさんは、それ以上わたしを引き止めたりはしませんでした。内容が辛辣過ぎましたから。

Tさんはその後すぐに部長に昇進しますが、SIerにしておくのはもったいない位に本当に素晴らしい人だったのです。

契約終了が決まってから起きた事

みんな、苦しい

わたしが提出した報告資料はA4で100ページを超える物でしたが、Tさんはたった一晩で全てに目を通してくれました。

そして、これまでのわたしの不遇な扱いについて心の底から謝罪してくれました。

そのTさんは主に外回りの仕事をしていたので内情について全く知らなかったのだそうです。それが、部長さんが精神を病んでしまって休職が突然決まり、急遽、代理を務めていた矢先の事でした。大体世の中というのは常に理不尽なんです。仕事が出来る人程沢山の仕事と責任が降ってきます。

前任の部長さんが精神を病んでしまった理由もわたしには分かります。

何しろ、部長さんが担当していたプロジェクトに派遣されていた技術者は実は暗黒大陸長野 Vol.1 - ここが出発点(2011-2013頃)で言及した劣悪なプログラムコードを書いたA社の技術者さん達でしたから。長野ってそういう狭い世界なんです。

問題だらけですからそれは心労が並大抵の物では無かったでしょうね。

Tさんがこっそり教えてくれました。

そのSI企業さんも結局世界的大手企業の子会社なので、親会社は下請けのように仕事を丸投げしてくるのだそうです。それでいてノルマや要求される品質だけは高いので、プロパーさん達もかなり精神的に追い詰められているのだそうです。

ですからプロパーさん達も親会社と派遣従業員との板挟みで結構苦しいみたいです。ブルーハーツが楽曲『TRAIN-TRAIN』の中で唄っていた「弱い者達が夕暮れ、さらに弱い者を叩く」の言葉通りの世界が広がっています。

契約が終了してからしばらく経った頃、その企業の社屋の近くにある家電量販店に買い物に行ったら、休職中の部長さんとばったり出くわしました。

本当にやつれていて明らかに精神を病んでいましたが、それでも会社の側には居たかったんでしょうね…。本当に心が痛みました。

もし仮にA社の技術者達では無くわたしが部長さんのプロジェクトに配属されていたら、絶対に部長さんを休職に追い込むような事態にはさせなかったのに…。人生とは、本当に上手くいきません。

派遣の品格

A社の技術者の低次元さについては目に余る物があります。

就労期間中に参加したとあるプロジェクトに於いて、検索結果の表示が遅過ぎるのでSQLクエリチューニングをして欲しいという依頼が来た事があります。

DBに問い合わせを行っているSQLクエリを見てみるとRDBMS(リレーショナル・データベース・マネジメント・システム)のオプティマイザが何をしているのか全く分かっていない感じのSQL文が書いてありました。

それで、実際に検証を行うために検証用データが無いか聞いた所、依頼をしてきたA社の技術者2名は目配せをした後、あろう事か膨大な個人情報の塊である本番環境の生データを書き出して禁止されているUSBメモリにコピーし、わたしに渡してきたのです。

それが、どれほど重大な契約違反であるのか全く理解していないんですね、この2名は。普通、開発するにあたってダミーデータとか用意しませんか? ちょっとコードを書いてランダムデータを生成すればいいじゃないですか。

これが一般的な派遣労働者の仕事人としてのレベルなのです。

同胞に裏切られる

そして、わたしの友人であったSさんもやらかしてくれます。

派遣契約を終えて自社で仕事をしている合間にSさんのTwitterを何気なく見たら、平日の真っ昼間に一日中呑気に延々とTweetしていました。勿論、派遣就労期間中です。

これを見た時は、流石に怒りが湧いてきました。あなたの状況でそういう事します? 普通。

わたしが必死であなたのサポートをしてあげていたの、一体何の為だと思っているのですか? あなたが何を言っているのか分からなし、改修が全く進まないからプロパーが常に不機嫌なので場の空気が悪くなるからです。

それなのにあなたがそんな事しているのを相手企業が知ったら、あなただけではなくて弁護してあげていたわたしの評価まで下がるんですけど、全く理解出来ないんですか?

非常に厳しい事を言いますが、あなた、社会性皆無じゃないですか。まともな対人会話が殆ど出来ない。だからわたしがサポートしていたのに、全く理解出来ていなかったんですね。

ずっと見ていましたけど、あなたはいつまで経っても本当に自分の事しか見えていないから、わたしがでしゃばり過ぎない範囲で人知れずチーム全体の調整まで行っていた事に全く気付いていませんでしたよね。少なくともプロパーの人の多くはそれにちゃんと気付いていました。

特定派遣企業の従業員の辛さは理解しますし、そこから先は個人の価値観の問題なのでわたしがとやかく言う事ではないですからその時は何も言いませんでしたが、それ以降SさんのTwitterのフォローは行わないようにしました。見ているとイライラしてつい余計な事をリプライしてしまいますから。考え方が違うので下手にリプライするとSさんには迷惑な話でしょう。

基本的に、自分では改善の方策を何もしていないのに愚痴しか言わない人は見るに耐えません。

もう一つ厳しい事を言うと、あなたの所属していた会社さん、派遣されてくる技術者達があまりにも仕事が出来ないので賃下げ交渉されています。

わたしは起業して3年目のたった一人の会社なのに実は派遣単価が一番高くて、契約更新を断った際には引き止めまでされています。単価の話になった時にあなたのプライドを考えて嘘を言っておきましたが、実はあなたの会社の派遣単価よりも6%近く高かった。

それが何故なのか、もうちょっと良く考えた方が良いのではないでしょうか? 仕事って、一体何でしょうか? それ以前として、時間給の契約なのに仕事中にTwitterするのとか、本当に辞めた方が良いですよ? 明らかに契約違反ですから。

わたしが大先輩である技術者さん達に対してあまり敬意を払わなくなったのはこの頃からです。経験が長いだけで『組織における仕事の何たるか』を全く理解しておらず、自分しか見えていないので言われた事しかやれない癖に『自分は凄い』と思っている人は、相手の気分を害さないように気を遣って会話をするだけで疲れるからです。社会性が全く無い人、つまり周りが全く見えていない人、問題解決の為の議論が全く出来ない人が多過ぎますから。

だから一般的に技術者という人種はあんまり信頼されていないし社会的地位が低いのだという事が分かっていません。これはITの技術者で特に顕著ですね。

部署長Tさんの凄さ

最後に、わたしの陳情を聞いてくれたTさんの凄さについて言及します。

わたしが報告書を提出したTさんは報告書の全てにきちんと目を通してくれて、心の底から謝罪してくれたのは前述の通りです。

それにとどまらず、Tさんは部署内の改革にまで着手してくれます。

元々SIは技術の事は全く分からない人の集まりなので技術的な事はすぐには改善出来ないが、出来る事から一つずつ改善していくと言ってくれて、わたしが報告書に書いた本当に隅の方にある非技術的な事柄、つまり組織運営での改善すべき点について、たった一週間後に対策を行ってくれました。

それだけではありません。

どうしようもないプロパーのせいで疲弊していたわたしの心身にまで配慮してくれて、契約期間の最後の1ヶ月間は殆ど何もしなくても良いと言ってくれました。何しろわたし一人の尽力でそれまでにプロジェクトをほぼ完了に導いていたので、契約は既に果たされていたからです。

それでも、ちゃんと1ヶ月分の契約料金がわたしの会社宛に支払われました。人格者って、本当に居るんです。当たり前の事のように聞こえますが、経営者でも無いのにその判断と決断が出来る人というのは、実は私の50年の人生において片手で足りる程しか見たことがありません。

Tさんは私と同い年ですが、わたしと違って一つの企業にずっと勤めています。にも関わらず、わたしと同等の社会観・倫理観を持っているのです。心の底から『この人、凄いなぁ…』と思いました。

だから尚更その会社に残るわけには行かなくなりました。

だって、前述のような劣悪な派遣労働者ばかりなのです。わたしが残れば必ず『ここがおかしい、あそこがおかしい』と言わざるを得なくなりますが、それはわたしのようなマトモな技術者にとっては改善であっても、劣悪な技術者達にとってはぬるま湯を作るだけなのです。

そうしたら、きっとあちこちでプロジェクトは停滞し、最終的にTさんの責任問題に発展します。人間というのは、善人よりも愚者の方が遥かに多いですから。

Tさんの事、人間的に大好きでした。

だからこそ当時のわたしは力が無さ過ぎて一緒に働く事すら出来なかったのです。

まとめ

この記事では、わたしが働いたSI企業で見た闇と光について言及しました。

こうした事はわたしに限った事ではなく、日本中の膨大な現場で繰り返されているようです。こんな状態ではマトモなシステム開発等行える筈もなく、だからこそ欠陥システムが日常的に生産され続けているのです。

それについて『問題だ』と思う人は沢山いても『なんとかしよう』と行動を起こす人はほぼ居ません。そこにこそ、闇を感じます。

非常に多くのシステム開発が大炎上して実質的な失敗を繰り返していますが、どちらが悪いとか無いです。上流工程もマトモに仕事が出来ていないし、下流工程も同様にマトモに仕事が出来ていません。だから遅延して失敗します。

誰か一人でも全体を見て調整が出来れば全く違った結果になるんです。船頭って、普通一人ですから。

次回は、SI企業での派遣契約を終了した後の事を記そうと思います。

※このシリーズに記載されている内容は些末な事を取り上げて大げさに語っているのでは無く、膨大に起きていた杜撰極まりない一般企業体制のほんの一部でありサンプルです。ほぼ全ての事象は詳細に記録されていますので異議申し立て等で必要性が出た場合にはそれら全てを公開します。

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